「神経を抜くなんて初めてなんで、怖いですよぉ」
治療が開始される前にさりげなく先生に甘え声を発してみた。恐れていることを伝えておけば、優しくしてくれるのではないかと期待したからだ。すると先生、
「初めてじゃないですよ。これで二回目です」
あら、そうだった? 過去のことは忘れるものである。でも忘れているぐらいだから、さほどつらい治療ではなかったのではないか。なんとかポジティブに捉えようとする。
幼い頃から先端恐怖症のきらいがある。高熱を発しているときに見る夢はいつも決まっていた。なぜか鬼をおんぶして、剣山の上を走って逃げている自分の姿が映し出される。怖いよー、痛いよー、と泣き叫び、自分の泣き声に驚いて目を覚ます。
あるいはうつらうつらと熱にうなされているとき、台所からトントントンと、母が包丁で何かを切っている音が聞こえてくる。その包丁の音がどんどん大きくなり、刃先がピカリと光り、そんな想像が膨らんで恐怖した。
成長するにつれ、尖ったものに対する恐れはしだいに薄れていったが、いまだに注射針が肌に刺さる瞬間を注視することはできない。