15年分の家賃を前払い、16年目以降は不要

入居者は、入居時に一括して15年分の家賃を前払いする仕組みで、16年目以降の家賃はかかりません。いま募集している第2期の住戸は(間取り変更代を含めず)、ワンルーム29平方メートルから2LDK64平方メートルまでで、1390万円~3170万円。34平方メートル1DKが1650万円、39平方メートル1LDKが1950万円、49平方メートル2LDKが2350万円といった金額感です。この金額を最初に払ってしまえば、あとは死ぬまで、何歳になっても住み続けられます。その間の月々の利用料は、1人暮らしならサポート費3.3万円と共益費8000円の計4.1万円、夫婦やきょうだい、親子、友人など2人住まいでも計5万7500円しかかかりません。

「サポート費には、サ高住としての安否確認サービスが含まれます」と、石井さん。入居者は毎朝、玄関ドアに「無事」を示すマグネットを貼り出します。石井さんらスタッフは朝、全戸を見回り、マグネットの出ていない部屋がないかどうかを確認します。もしマグネットが出ていなければ、呼び鈴を押して「大丈夫ですか?」と声を掛けます。それでも返答がなければ電話をし、電話にも応答がない場合は、預かっている鍵を開けて部屋に入るそうです。

2025年2月に完成・入居開始する自立型サ高住「ひろばの家・那須1」第2期の入居者を現在、募集中だ=那須まちづくり広場提供

この毎日の安否確認のほか、サポート費には、緊急時の対応、入退院時の病院への同行、初診時の通院サポート、生活相談が含まれています。高齢になって一番困る、病院への付き添いが頼めるのは頼もしいです。もちろん、各部屋には、警備保証会社の通報システムも付いています。でも、通報ボタンを押す間もなく意識を失ったり、倒れた近くにボタンがなくて押せなかったりしても、こうして人が見回りに来てくれるので安心です。自宅で倒れて、誰にも発見されないまま何日も放置される、といった「最悪」の事態は避けられそうです。

自炊もできますが、食事の用意が負担な人向けに、1日3食、提供しています。予約制で別料金がかかりますが、校舎1階のカフェで提供されます。具合の悪い時には自宅まで運んでもらえます。さらに、サ高住の住民は、NPOが運営する巡回送迎車のサブスク付き。予約制ですが、無料で利用できます。毎日3便(2025年からは日に4便に増便予定)、最寄りのJR黒田原駅や新白河駅はもちろん、駅前のスーパーや役場、病院、温泉、映画館、市街地などを巡るルートで運行しています。ほとんどの用事は、このバスで事足りそうです。

「ひろばの家・那須1」の1LDKの部屋
自立型サ高住「ひろばの家・那須1」の、募集中住戸(取材当時)の内観。1LDKの部屋だが、無垢の床と3面採光、高い天井のため、広く感じる

このサ高住「ひろばの家・那須1」を運営しているのは、那須まちづくり株式会社です。同社は、ずっと働いてきたシングル女性を対象に、価格設定を考えました。彼女らの年金を月12万円と推計。その年金額でも老後に住宅難民にならないよう、定年までの貯蓄や退職金で支払えて、月々の共益費などの負担も年金で賄える金額に収めるように計画したといいます。

ただ、建設費の上昇で価格も上げざるを得ませんでした。「建築資材と人件費の高騰で、第2期は坪単価が160万円ほどに上がってしまって」と、那須まちづくり株式会社の役員で営業担当の佐々木敏子さん(72)は申し訳なさそうに話します。第1期は坪125万円ほどでした。佐々木さんは、入居希望者への「まちづくり広場」や住居の案内だけでなく、人生設計や資金計画の相談にも乗っています。

価格が上がったとはいえ、この価格なら、大企業の正社員だった女性なら退職金で払えるでしょう。都内で普通の新築マンションを買うのに比べれば数分の1の値段です。那須とはいえ新築でこの値段で、自由設計可なのですから魅力的です。都内のマンション型のサ高住と比べても、同じく60歳で入るなら数分の1の金額でしょう。