「健康で文化的な」生活
「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」は、主に60歳以上の人が対象の、高齢を理由に「追い出される心配」のない賃貸住宅です。自立高齢者向きと要介護者向きがあり、安否確認サービスが付帯しています。国交省が整備を推進していて、いま全国に約8300棟、計約28万8000戸(2024年6月現在)。「シニアハウス」「高齢者用賃貸住宅」などとして、多くのサ高住が提供されています。
ただ価格もサービスの質や内容もピンキリで、60代で入ろうと思ったら6000万円もしたという話も(連載第14回で紹介しました)。特に、地価が高い都市部では、「富裕層が高級有料老人ホームに入る前に住む賃貸住宅」という位置づけの高額物件も少なくありません。首都圏で安いサ高住を探すと、不便な郊外のバス便とか、エレベーターのない3階建てとか。高齢を理由に退去させられないだけがメリットで、居室も狭く立地も不便で割高な物件も散見されます。
そんな中、今回紹介した「那須まちづくり広場」のサ高住は、理想的な「終の住まい」と言えるでしょう。60歳から終末期まで、自立から要支援、要介護状態を経て在宅介護や看取りまで。高齢者を最期まで「途切れなく」見続けられるサービスを組み込んでいます。金額的にも「働いてきた単身女性が退職金で買えて、年金で月々の維持費が払える」予算感です。高齢者施設を中心に、多様な世代の人が住み、訪れる「場」が形成されているのも魅力的です。
願わくは、近山さんの構想通り、那須と同じような「町」が、全国に広がりますように。安心して老後を過ごせる「町」は、地域人口を増やし、小さな雇用を生むでしょう。送迎サービスがあれば、車がない高齢者も「引きこもり」にならずに出掛けられるでしょうし、文化や教養娯楽は脳を活性化させるでしょう。楽しい老後ならば、健康寿命が延びて、医療費削減にもつながりそうです。憲法に保障された「健康で文化的な」生活を、老後も国民みなが送れる、そんな明るい未来を、モトザワは切に望みます。
※那須まちづくり広場のサ高住の第2期入居者募集については、以下URLをご参照ください。
https://nasuhiroba.com/house01/
本連載をまとめた書籍『『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)』が発売中