自分の気持ちを代弁するような台本を受け取って
この戯曲を受け取って目を通した時、あまりにも自分の気持ちと重なる部分があり、感極まって台本を抱きしめてしまったほどです。「役者をやっていると、こんなことがあるんや」とそんな思いに駆られました。稽古が始まるまで半年間くらいあったのですが、思いは膨らむばかり。現場に入る前には、「この舞台が自分の思いの発散の場になってはいけない」と自ら言い聞かせていました。
実際稽古に入ると、演出家のジョナサン・マンビィが、他に類を見ないほど丁寧に作品を作り上げていくことに驚かされて。今回はジョナサンたっての希望で、チャーチルによる戯曲『What If If Only―もしも もしせめて』と『A Number―数』(出演:堤真一、瀬戸康史)が同時に上演されます。
普段の稽古は別々なのですが、最初に行われた座学では両作品の役者が一同に介しました。そして、それぞれの作品にまつわる知識を深めるため、専門家を1人ずつ招いて話を聞くことに。『A Number―数』はクローンに関わる話なので、遺伝子技術の先生、『What If If Only―もしも もしせめて』は喪失の物語なのでグリーフケア(編集部注:大切な人との死別を経験した人へ、心のケアや支援を行うこと)のカウンセラーの方が来てくれて。どちらの専門家の話も興味深く、僕らも作品を跨いで話をすることで、ますます世界観が深まり、それぞれの作品に生きてくる。そんなところからも二つの戯曲が同時上演される意味を感じました。
僕は、これまでも役をいただくたびに、図書館に行って関連本を読んだり、専門家を訪ねたりしてきました。学び直す絶好の機会だと楽しんでやっていますが、その時間を舞台関係者みんなで共有できるのは本当に貴重な経験でした。