武雄温泉の新館を設計したのは……

話を戻すと、初の武雄温泉では温泉旅館を取ってもらったのだが、編集者によると、武雄には立派な公共温泉があるから、ぜひ入るべし、とのこと。

そして来てみれば、宿の目の前に、朱色の大きな楼門が立っている。

「……なにこれ? ……竜宮城!?」

と、頭の中で言ってしまった。

久住昌之
「竜宮城!?」と思った武雄温泉入口(写真:『新・佐賀漫遊記』より)

そこが、まさに武雄の公共温泉だった。なんでこんなに派手に。

それをくぐると、奥には昔の吉原の遊郭か? というような、朱色をふんだんに使ったこれまた立派な二階屋の建物がある。さらになにこれ? である。ここ、温泉じゃないの?

これまた浮世離れした造形・色彩の新館(写真:『新・佐賀漫遊記』より)

そこは、たしかに武雄温泉の新館だった。「国指定重要文化財」と書いてある。設計したのは、なんと東京駅を設計した辰野金吾。

え、なんでそんな人が、九州のこんな山の中の温泉銭湯(失礼)を、こんな特異な形に設計したんだ? なぜそんな企画が通ったんだ? エラクお金がかかってそうだけど、誰がそんな大金出したんだ? 竜宮城の前で、謎が頭の中をぐるぐるした。