「使えない街」と化したムサコ

夜が明けるのを待って駅周辺の様子を見に行くと水はすでに引いており、粘土状の泥が歩道にまで広がっていた。汚臭はしないとはいえ、下水から逆流したのだから不衛生な水であるのは確実。泥が乾き、ビル風に舞えば二次災害になりうると想像してゾッとした。

ちなみに肺炎を起こしがちな母のいる我が家では、約2週間過ぎた今も窓を閉め切り、外出時にはマスク、帰宅後は靴底を消毒するようにしている。

一方、停電は13日の午前11時頃に復旧し、まずはひと安心……と思いきや、駅近くの48階建てのマンションでは、地下にある電気設備が冠水し、復旧の目途が立っていないという。オートロックのドアが開きっぱなしになるのも怖いが、最も困るのはエレベーターが停止してしまうことだ。

我が家も以前、別のタワマンの36階に暮らしていたが、東日本大震災の折に停電し、登山、下山並みに階段の上り下りを強いられて参った。このようなことが再びあれば高齢の母にはとても無理だということで、震災を機に近くの低層マンションに移転したという経緯がある。

しかも今回は断水と下水問題も生じ、トイレが使えないという事態が重なってしまった。住人たちの多くが親戚宅やホテルに身を寄せたと聞く。復旧までには1週間以上もの時間を要した。

14日には横須賀線武蔵小杉駅が営業を再開。しかし浸水により自動改札機や、エレベーターが故障してしまったロータリー側の改札は閉鎖されたままで混乱が続いた。こちらも1週間後には復旧したのだが……。

ネットには今も「〈暮らしたい街〉が一夜で〈使えない街〉と化したムサコ」といった心ないコメントが数多く寄せられている。ムサコの悲劇は都市生活のもろさを物語っているというのに。「明日は我が身」かもしれないのに……。

タワマンに暮らす知人は「50年先まで安心だと言われて買ったのに」とこぼす。耐震に強い構造であるのは確かだというが、天災は地震だけではない。このことに気づかせてくれた台風19号の教訓を生かしていきたいものだ。

それにしても再び大きな天災に見舞われたら、タワマンの街、武蔵小杉はどうなるのか? 川崎市には一日も早く開発に見合ったインフラ、そして災害対策を講じてほしいと願うばかりである。