イメージ(写真提供:写真AC)
l2019年、日本列島を襲った台風19号は、記録的な大雨とともに、各地に甚大な被害をもたらした。福島・神奈川から被災状況をレポートする
〈福島より〉

山積みの家具に折り重なる畳
(取材・文◎武香織)

町中が、土の色一色だ。空気も道路も草木も建物も廃棄物と化したモノも、そして一心不乱に掃除する人たちも……。

福島県の阿武隈川沿いにあるひとり暮らしの従姉の家が浸水。知らせを受けた翌々日、避難所生活をしている従姉のために、不足している必需品の差し入れと片付けを手伝おうと、現地に駆けつける。

早速、従姉と同行した息子と3人で、東京の作業用品店で購入した安全靴、ゴーグル、防塵マスクなどを身に着けた。隙間に泥が詰まり固く張りついた玄関のドアをこじ開けると、いきなり高さ160cmほどの家具が現れて行く手を阻む。それを外へ出し、泥と散乱物に足をとられないよう注意をはらいながら奥へと進むと、1階の天井まで浸水したことがわかる。

生臭さとカビ臭さが入り交じったような強烈な臭いと、無惨で異様な光景に、思わず息を呑んだ。畳が、無造作に積み重なる家具や家電の上に覆いかぶさっている。床にあるはずの扇風機は、ファンの部分が天井と神棚の間にすっぽりはまってだらりとぶら下がり、まるで首吊りしているよう……。

山積みになった家具は、そっと手を触れただけで今にも崩れそうにミシミシッときしむ。「どこから手をつけたらいいの? どうしてこんな目にあわなきゃいけないの……?」と従姉が涙声でつぶやく。何の答えも返せない自分に、無力感が募る。

無難に小さな置物や割れた食器などを拾い集めていると、4人のボランティアの方が来てくれた。安堵感で全身の力が抜ける。作業は、一番のベテランさんのアドバイスにそって進めていく。どれもこれも、汚水をたっぷりと含み、ずしりと重い。しかも気温は8度、ゴム手袋越しでも冷たさが伝わってくるのがつらい。

ふと、従姉の額が腫れているのに気づく。いつついたのか本人にも自覚のない小さな傷に汚水が入り、膿み始めていたのだ。破傷風などの感染症も疑われる。けれど病院へ行くにも、車は浸水して廃車状態。それに気づいた近所の方が自身の作業を中断し、水没を免れた車を走らせ、一緒に診療中の病院を探し出してくれた。その温かさに目頭が熱くなる。