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観光庁の発表によると、2023年の訪日外国人旅行者数は約2507万人で、過去20年間で4番目に多かったそう。インバウンド需要が回復しつつあるなか「日本人は、多くの日本の美点を見過ごしている」と語るのは、SNSで絶大な人気を集めるティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使。ジョージア生まれ、日本育ちの大使が興味深いと感じた、日本人にとって「当たり前」の文化とは? 自著『日本再発見』より、その「日本らしさ」を一部ご紹介します。
学生時代のアルバイトが教えてくれたこと
日本の大学生活といえば、アルバイトをするものと相場が決まっていますね。私もいろいろなアルバイトをしました。
なかでも記憶に残っているのは「花」というしゃぶしゃぶ屋でのアルバイトです。
といっても長く働いたわけではありません。店長が非常に仕事熱心な反面、すぐ怒るタイプの方で、あまりに叱られた私はやる気を失い、3、4か月で辞めてしまいました。
それでもとても印象に残っているのは、いっしょに働いていた辰野(たつの)さんという、60歳を過ぎたこざっぱりとした女性が私に良くしてくれたからです。
ジョージアにはしゃぶしゃぶやすき焼きのような料理はありませんし、高校時代までに食べたこともあまりありませんでした。
日本の大学に入ったからには日本の食文化を学ぼうという意図もあってしゃぶしゃぶ屋さんで働いてみることにしたのですが、思っていた以上にしゃぶしゃぶのオペレーションは複雑でした。
野菜や薬味、タレ、ポン酢等々は一度にすべてお客様に渡して「あとは勝手にやってください」ではなく、どのタイミングで何をお客様に出せばいいのかがある程度決まっています。
でも外国人である私はそのあたりの勝手がなかなかわからず、ほかの店員との連携もうまくいきませんでした。それで店長から叱責されてばかりだったのです。
花はサラリーマンがよく来るお店でしたが、お客さんが少なく暇な日もあり、そういうときに辰野さんがよくご家庭や息子さん、ご主人のことを話してくれました。
やさしく、いつも周囲を気遣っていて、羊羹(ようかん)やケーキなど「ここが一番なの」と言いながらお土産も持ってきてくれました。
特に辰野さんの紹介で知った虎屋の羊羹は印象的でした。虎屋は和菓子の中でも高級の部類で、「外国人に食べさせても味がわからない」と躊躇してもおかしくないところ、辰野さんは「これが私が一番好きなお菓子よ」と言って、虎屋の羊羹を分けてくれたのです。
それがきっかけで私は和菓子が好きになり、虎屋のシリーズは今でもさまざまなシーンで愛用しております。
私がアルバイトをやめてカナダに留学したあともしばらくメールを続けていましたが、2010年ごろを最後にやりとりが途絶えていました。しかし先日、電車に乗っていた際に突然辰野さんのことを思いだし、久しぶりにメッセージを送ってみました。
するとなんと「76歳になったよ、元気だよ」と絵文字をたくさん使ってお返事をくださったのです。覚えていてくださって、また、お元気なようで、とてもうれしかったです。