芸人の前に人間なんだ

私は17歳で吉本に入ってから、自分のことを「芸人間」だと思ってきました。「人間」よりも前に「芸人」である、という感覚でしょうか。そんな私が、娘にそっぽを向かれて初めて「もし神様がいて娘との仲を取り持ってくれるのなら、今すぐにでも芸人を辞めるのにな」と思いました。辛いことがあっても、舞台に立てば忘れられたのに、あの時ほど舞台に立っていても、何をしても心に穴が空いたようになっていたことはありません。

楽屋でもうなだれていた私に、同じく娘を持つ先輩芸人である浅香あき恵姉さんが声をかけて、話を聞いてくれました。姉さんには、「娘ちゃんはキツい言葉で言ったけど、小さい子が甘えてるのと同じなんじゃない?表現が違うだけだよ」と言われました。その言葉を聞いて始めて、私は素直な言葉で娘に謝ることができたのです。娘とやっと仲直りできた私が強く感じたことは、自分も“芸人”の前に普通の人間だったんだ、ということでした。「芸人たるものこうあらねば」などという思い込みを捨ててもっと魂を磨かなあかん、そう思ったことを覚えています。

仲直りの後、娘に対して私も自分が悪かったと思うところは頭を下げるようになり、だいぶ関係が良くなっていきました。娘は金銭感覚もしっかりしていますし、おかずを作り置きして食べさせてくれたり、本当に元夫がちゃんと育ててくれたと感じます。思えば彼は娘が生まれたばかりの頃、「君は思いっきり仕事をするといい、娘はちゃんと俺が良い子に育てるから」と言ってくれていたんです。

家族写真
写真提供◎島田さん

別々に暮らしている時、私は娘と遊園地や温泉、外食など、笑顔になるような瞬間だけを共にしていました。当時、夫は「夜が大変やねんで」と言っていたのです。身の回りのこと、宿題や学校の提出物、持ち物の確認など、“やらなければいけないこと”を娘と夫でやってくれていました。

私は一見いいとこ取りの子育てをしていたようですが、やはり “絆”というものは面倒なことをする時間に生まれるものなのかもしれません。だから今こそ私は一生懸命、娘との絆を育ててる最中で、やっと母親3年生になりました。一緒に暮らせない月日はありましたが、娘は私ががむしゃらに仕事をしてきたことはわかってくれていて、「私といる時間は普通の人より少ないけど、働いてるママのこと尊敬してるよ」と言ってくれます。こんなふうに娘を育ててくれた夫に、今は感謝しかありません。