漢詩風の和歌を口ずさんだ意味

つまり朧月夜は、昼間に見た源氏の姿が忘れられず、源氏が披露した漢詩の声の美しさを、漢詩風の和歌を口ずさむことによって思い出していたわけです。

それはちょうど、アイドルのライブに出かけた若い女性が、その歌声やパフォーマンスの素晴らしさに酔いしれた感覚といってよいでしょう。

コンサートのうきうきした感覚が、そのまま続いていたわけです。

いまなら、そのアーティストの曲を歌うのと同じ感覚で、朧月夜はこの和歌を口ずさんでいたのではないでしょうか。

闇のなかで姿は見えず、けれども若く美しい歌声を響かせてやってきたのが、朧月夜です。

源氏はとてもうれしくなったと語られています。そしてふっと、その袖を捕らえるのでした。

二人の運命的な出会いの場面です。

※本稿は、『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』(著:松井健児/中央公論新社)

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多彩な登場人物や繊細な感情表現に触れ、物語の魅力に迫ります。