自分や娘の実体験から生まれた物語
受賞作『ライオンのくにのネズミ』は、父親の仕事の都合でライオンのくにに引っ越すことになったネズミの子どもが主人公です。ネズミ語が通じない転校先で困惑しながらも、成長していく主人公の姿には、私の経験が反映されています。転勤族の家で育ち、日本だけで5回引っ越したうえ、結婚後は突然海外で暮らすことになったものですから。
国内であっても地域が違えば文化は異なりますし、排他的な地域では受け入れてもらうのに時間がかかることも。私自身、疎外感からつらい思いをした時期もありました。小学2年生で転校した奄美大島では、クラスの子に「雪、見たことある?」と聞かれて。地域による違いはこういうところにもあるのか、とハッとしました。
国が変わると、その差はさらに広がります。私は名古屋で勤めているときに夫と知り合い、結婚後、ドイツで暮らすことになったのですが、通ったドイツ語学校にはさまざまな国出身の生徒がいました。
たとえばアフガニスタンから来たという20代の、溌剌としてスポーティーな雰囲気の女性。あるとき、自転車に乗ったことがないと聞き、みんなでびっくりしたんです。思わず「なんで?」と聞いてしまったのですが、宗教上や政治的な理由で女性が自転車に乗って外を走り回るのが難しい国や環境があることを、私はそのとき初めて実感しました。自分が当たり前だと思っていることが当たり前ではない国もあるんですね。
また、この作品には「せんそうのあるくにからきたリス」も登場します。ある書店員さんからは、「〈戦争〉という設定が、この物語に必要だったのか」という感想もいただきました。ただ、ドイツにいると、戦争は日本で感じるほど“遠いところのできごと”ではありません。語学学校のクラスメイトにもシリアから逃れて来た人がいたし、娘の保育園のクラスメイトには、戦禍を逃れてウクライナから来た園児が2人いました。
特に、私が暮らすフランクフルトは、いろいろな国の人が集まっている国際都市だけに、さまざまな戦争や紛争の体験者が身近にいます。リスのキャラクターに込めた思いを感じていただけたら、嬉しいです。