『枕草子』の誕生は一番好きなシーン

清少納言が定子のために書いた『枕草子』が誕生するシーンは、台本を読んだ時点で、私が一番好きなシーンでした。というのも、セリフがなく、情景だけで『枕草子』の誕生という大きな出来事を描いているから。さらに、意識の流れではなく、映像として四季を見せてくれる点はドラマだからこそ描ける手法ですし、大石静さんは本当に素敵な作家さんだと思いました。このシーンのオンエアを見た時に、「こういう守り方があるんだな」と、清少納言はかっこいい女性だと感じて。

『光る君へ』場面写真
心身ともに疲弊した定子を元気づけようと、ただ一人のために、清少納言は『枕草子』を書き始め、定子の心は癒えていく

「春はあけぼの」というくだりは学生時代に習っていましたし、空で言えるぐらいのはずなのに、その意味を感覚としては受け取ってはこなかった。それが学んだ時間から何年も経って自分が定子役をやることで、「日本文学って素晴らしい」とあらためて感じられたことはすごくいい経験になりました。そして清少納言役のファーストサマーウイカさんは、撮影の中でも外でも私を推してくれるので、それに救われた部分も大きかったです。

自分自身、これまでにさまざまな役をしてきて、何かに憧れる、何かに対してエネルギーを持つほうの役が圧倒的に多かったんです。当初、推される役の不安がすごくあって、憧れの目で見てもらえる人物像にしなければならない。こんな人間だと推せないと思われないように頑張らなきゃいけないと、すごくプレッシャーを感じていて。その点でウイカさんはいつも私を憧れの存在であるというふうに扱ってくれたことが、現場において私を楽にしてくれました。

『光る君へ』場面写真
突然、自ら髪を下ろした定子を抱きとめる清少納言

定子は能動的な部分もありながら、清少納言や一条天皇、家族のみんなから、何かを受け取ることも多い役。いろいろな方のエネルギーをもらって引き出してもらえた表情もあります。家族からは罵倒されるシーンも多く、「皇子(みこ)を産め」とずっと言われるなどもうやっていられないですが(苦笑)、こういうシーンも父・道隆役の井浦新さんや兄・伊周役の三浦翔平さんのエネルギーをもらって生まれた感情がたくさんありました。