相撲
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医師による貴重な現場の声

私は雨が降る前にめまいや下痢をするという天気予報体質で、母とは別の医師にかかっていた。母が大相撲放送を忘れたことを言うと、医師は「主婦の認知症は冷蔵庫内を見れば分かる。同じものばかり入っていたら認知症を疑うしかない」と話してくれた。

母は生協の宅配を頼んでいた。そういえば、冷凍室はサンマだらけ、野菜室はトマトばかりだった。

「先生は内科医ですよね。どうしてそんなことが分かるのですか?」と質問した。すると医師は、「うちがそうなの。母が卵ばかり買ってきて、冷蔵庫は卵だらけ」とのことだった。

事件は冷蔵庫内で起きていた。医師による貴重な現場の声であった。

兄は3食自宅で食べていた。何でも食べ、母のワンパターンの食事に文句を一切言わなかったようだ。ちなみに兄は統合失調症の症状が良くない時に、「ご飯に毒を入れたな」と妄想で言ったが、それでも完食するという食いしん坊だった。

母が毎週書いている生協の注文用紙を見ると、サンマ2匹入り7袋、トマト5個入り3袋など、3人家族には多い数を注文していた。

私は「休日に1週間分の買い物をするから、生協はやめよう」と提案したが、母は「何でやめるのよ」と怒り、泣きそうにもなった。

母は一週間に一度の宅配日に、毎朝、玄関に注文用紙を置いていた。私は出勤で玄関を出る時、サンマやトマトの袋の数を書き直した。母はそれに気づかず、配達されたものを、素直に受け取り始めた。この作戦は成功したのである。

同じものの購入は、認知症の行動では珍しくない。しかしその後、母の行動は認知症の専門家も首をかしげるものになり、その対応で私の睡眠時間は1日2時間となった。

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