連載「相撲こそわが人生~スー女の観戦記』でおなじみのライター・しろぼしマーサさんは、企業向けの業界新聞社で記者として38年間務めながら家族の看護・介護を務めてきました。その辛い時期、心の支えになったのが大相撲観戦だったと言います。家族を見送った今、70代一人暮らしの日々を綴ります
男の胃袋をつかめなかった料理自慢
「私は料理が得意なのよ」と言う一人暮らしの65歳の人の家に、友人と遊びに行ったことがある。私と友人が60歳になったからお祝いをしてくれる、と言うのである。
いろいろな具の入った太巻き、卵焼き、お吸い物がでてきた。
食べたら、太巻きのごはん部分は酢がきつすぎ、お吸い物の味も上品ではなく、卵焼きの味も良くなかった。どこが料理が得意なのか分からない。友人の顔からも「まずい」は受け取れた。
しかし、彼女はそれに気づかず、若い頃の話をはじめた。
「『男の胃袋をつかめ』というでしょ。あれは嘘ね。20代の時、結婚したい彼ができて家に招いて御馳走したのに、結局別れた。30代の時に出会った彼にはお弁当まで作ってあげたのに、結婚できなかった」
帰り道、友人が「男どもは逃げて良かった。良い人だと思っていたけど、料理で幻滅して、私も付き合いたくなくなった」と厳しいことを言っていた。その後、私は彼女に会うたびに、あのまずい料理を思い出した。