ペニイ・セレネード

戦時下において、実用品以外の製造販売を制限した法律で、西陣織や友禅などの金銀を使う織物や、人形やレコードなどの娯楽関係品は「ぜいたく品」として槍玉に挙げられた。「ぜいたくは敵だ」「パーマネントはやめませう」のスローガンが街角に溢れ、ジャズは「退廃的な音楽」とされ始めていた。

とはいえ、この頃の東京や大阪には、まだリベラルな空気があり、都会のホワイトカラーや学生たちの趣味人は、ジャズソングを楽しみ、シヅ子のステージに喝采を送っていた。

ちょうど「七・七禁令」が施行される直前、6月20日に発売されたのが、笠置シヅ子とコロムビア・リズム・シスターズの「ペニイ・セレネード」だった。

原曲はオランダの作曲家で、バンドリーダーでもあるメル・ウエルズマが1938年に発表したタンゴのラブソングで、ジョー・ロスと彼のバンドのレコードでヒットした。

服部良一のサウンドはスローテンポのタンゴから一転して、スピーディなホット・ジャズとなる。

ギターとリズムセクションが奏でるリズムは、デューク・エリントンの「A列車で行こう」や、ハリー・ウォレンの「バッファロー行きの新婚列車」などでお馴染みの列車の進行を思わせるスタイル。

メロディは、服部がプロデュースしていたモダンなコーラスグループ、中野忠晴とコロムビア・リズム・ボーイズの「山の人気者」のような牧歌的な情景が浮かぶのんびりした味わいがある。