創建まもない安倍神社へ

いまも盛んに更新されている素心氏のブログによれば、神社の所在地は長野県下伊那(しもいな)郡阿南町(あなんちょう)東條。グーグルマップで検索すると、長野県の南部がヒットした。

伊那盆地南部の中心である飯田市よりもさらに南であり、ちょうど南アルプスを望む山中にあたる。愛知県や静岡県との県境も近い。JRの飯田線もそばを走っているものの、ほとんど秘境のような場所だ。今回、豊橋市より車で向かったが、険しい山道を2時間かけて越えなければならなかった。

『ルポ 国威発揚-「再プロパガンダ化」する世界を歩く』(著:辻田真佐憲/中央公論新社)

阿南町の中心部からやや外れたところに、ようやく案内板が見つかった。「人間学学問所 素心塾」。その脇の細い山道を登ると、平屋建ての民家がポツンとあり、呼び鈴を鳴らすと素心氏がすぐに姿をあらわした。

作務衣(さむえ)に茶人帽を被り、胸には拉致問題の解決を願うブルーリボン。白い口髭はまるでマンガのキャラクターのように直線状にきれいに整えられていた。肌は日に焼けて黒く、82歳(取材時)にしては若々しかった。

氏はすでに吉水神社の宮司を引退しており、阿南町には2022(令和4)年5月に引っ越してきたばかりだった。

「ぼくは山登りが好きなので、信州に移住しようと思って。ところが、あちこち探したものの、どこも雪ばっかり。そこで温暖なここを選びました。そしてこれからは畑作業をしながら暮らしていこうと思った矢先に安倍さんが亡くなって……」

ブログの激しさにくらべて、素心氏の口調は穏やかだった。ただ、いまでも連日更新しているだけあって、話しだしたら止まらない。質問がてら、新居の庭先にある安倍神像神社に案内してもらった。