靴の製作以外に修理も請け負っており、店は定休日も盆・正月の休みもなく、朝8時に開店、夜は10時まであけた。日を追うごとにお客様は増え、お得意様もつくと、ガスや水道をひくことができてホッとしたものである。
そんなある日、倒産した履物問屋の処分品が出ることになった。大量の高級革草履があるというが、仕入れるためには現金を用意しなくてはならない。私は買ったばかりのテレビなどを質屋に入れ、金策に奔走した。
現代のようにローン会社のない時代。すでに私も、質屋に行くことなどすっかり平気になってしまっていた。早急に現金を用意するには、この道しかないからである。
かつての勤め先で、私は草履の鼻緒の立て方を習ったことがあった。それが思いがけず、役立った。革草履を売る際、ひとりひとりに合った鼻緒を立てることによって、一足の価格を上げることができたのである。
そして満足したお客様が別のお客様を連れてきてくださり、このときは飛ぶように商品が売れた。