とんねるずが推しだった
11月9日。私はひとり、神チケットを握って武道館へ向かった。ひと目、とんねるずを見られるなら席はどこでもいいやと思っていたのに、なんとアリーナ良席を当ててしまった。ひええ。
九段下駅からなんとなく察していたが、客層はすこぶる高い。タカさんこと石橋貴明さんのステージ上からの目視と、観客とのコール&レスポンスによると、男性客率が圧倒的に高いらしい。私のチェックでも50代後半から60代が多いように見えた。これは女子校上がりの私にとって、男子が多いというと夢の“サッカー部マネジャー”状態だと、少し嬉しい。そんな状況を見てノリさんこと木梨憲武さんが「女子、頑張れ〜!」と応援してくれた。頑張る、おばさん。
少し早めに座席に着くと、なんと両隣の席が70代と思しき女子。左手は通路を挟んで、女子がひとりで参加していた。手には以前のライブで購入したと思われるペンライトを持ち、パーマヘアに水森亜土風のニット帽をかぶった可愛らしいコーディネート。どうもタカさんのファンらしい。
右隣は友人同士と思われる、70代前半の女子ふたり。彼女たちもやはり、これまでのライブグッズを手に持ち、身につけていた。
「ねえ、息子がスマホで操作してくれてチケットを取ってくれたのよ」
「最近はなんでもスマホよね」
「ファンクラブがあった頃は、郵送なんかで申し込みできたと思ったんだけど、違ったかしら」
「ねえ、困るわあ」
ライブ開始まで彼女たちの会話をずっと聞いていた。年は取ったけど、聴力の良さだけは変わらないのは私のなけなしの自慢材料だ。
彼女たちの話をよく聞いていると、今から30年ほど前、心の支えだったのがとんねるずだったらしい。自分たちが子育てに追われて、旦那の浮気疑惑があって、姑に子どもの教育論でイビられて、苦しかった若いあの頃。辛いことがあってもタカとノリをテレビで毎週観られるから、笑って乗り越えられたと。放送を心待ちにして、VHSテープに録画して何度も繰り返し観ていたそう。
そこでふと思ったのは、彼女たちにとってとんねるずとは、現代語で言う“推し”だったということ。今でこそ、Snow ManやNumber_iを推しとして心の糧にしている女子が一般的になったけれど、今から30年前はとんねるずだって30代。アイドルのような人気ぶりだったのだから「かっこいい」と言われて当然。
つい今日の本題(ライブ)を忘れて、彼女たちの会話に勝手に参加していたが、今も昔も推しは何かを救うのだと、心にメモ。