「無事、新幹線に乗れました。お世話になりました。これでなんとか東京に帰れそうです」
座席につくなり私とS子さんは旦那様や関係者にメールを送る。
S子さんご夫妻とは三十年来の仲である。もともと広島出身のお二人だが、自宅は東京にあった。まだ仕事があるという旦那様を広島に残し、夫人と二人で東京へ帰ることになった。私としても心強い。
「何が起こるかわからないから、非常用の水とお茶とカップ焼酎とつまみを持ってきたよ。あと晩ご飯に宮島名物の穴子弁当も」
学生時代、運動部のマネジャーをしていたというS子さんが重い保冷袋を掲げて笑った。
「これだけあれば、車内に閉じ込められてもしばらくは生きていけるね」
冗談を言い合って、座席をリクライニングさせ、さっそく焼酎で乾杯。
「無事に講演会できて、カンパーイ!」
いい感じに酔っ払った頃、気がつくと、列車が止まっていた。窓の外に目をやると、稲穂とレンコン畑が広がるのどかな田園風景。風雨はさほど強くない。
「ま、いずれ動くでしょう」
楽観的に捉え、つまみと焼酎を交互に口に運びながら再び会話に興じる。
「ほら、動き出した」
安堵して二人宴会を続けるうち、岡山駅に入線した。乗降客の入れ替えが終わっても発車する気配がない。でも私たちは相変わらず心配していない。会話は尽きないのだ。