連絡の取れない兄
大変なことになったと思った。母の容体が悪ければ、明日は会社を休まなくてはならない。私の記事を載せる紙面は決定しているので、私が書かなければ、新聞紙面に穴をあけてしまう。必死で記事を書き終えたが、2時間以上たっても兄からの電話はなかった。
兄には私の携帯番号を教えていたが、当時、会社が入居しているビルは携帯電話の電波が入らないことも話していた。兄は携帯電話を持っていないから、病院の公衆電話からかけてくるはずだった。
午後9時になった。交通事故なら警察に届けているはずだ。私は地元の警察に電話をした。対応してくれたのはもちろん警察官だと思うが、交通事故の記録はあり、搬送先の病院も調べてくれた。私が病院に電話すると、「個人情報保護法により、電話だけでは入院している人を教えられません。また、今日はもう午後9時を過ぎているので面会できませんから、明日の午前8時以降に来てください」と言われてしまった。
家に戻ると兄がいないので、兄が一晩中、病院で母に付き添ってくれていると思い、少し安心したのである。