「切り替えが全然できない性格なので、帰宅するとその役のまんま、ぼーっと台本の前にいないとダメ」(岩下さん)

うちでは仕事の話はしない

──監督と女優さんのご家庭って、お二人で家に帰ってくると、どんな感じですか。

岩下 私は、現場から家に帰っても、炊事してお食事の支度して……という切り替えが全然できない性格なんです。帰宅するとその役のまんま、ぼーっと台本の前にいないとダメ。でも、仕事の話はうちでは全然しなかったですね。ほかの俳優さんと同じで、前もって撮影について何か教えてもらうことは一切なかったです。

小山 うちも仕事の話はまずしませんでしたね。主人の母が一緒でしたから、息子たちはおばあちゃんに育ててもらったようなもの。母は「手が荒れるから、女優さんは洗い物をしなくていい」と気遣ってくれて。現実的に、女優をやりながら台所仕事は無理でした。

岩下 体力があって、よっぽど器用じゃないと……。でも、大島さん、おうちではやさしそうよね。

小山 篠田さんもやさしいじゃない。

岩下 やさしいけど、でも大島さんは現場ですごいじゃない(笑)。おうちであの迫力のまんまではないだろうな、って思いました。

小山 篠田さんはきっと家でも外でも変わらずだったでしょう。うちの息子が篠田監督とドキュメンタリーのお仕事をしたとき、「うちのパパが篠田さんみたいな人だったら本当によかったのに」って。

岩下 あら、そんなことが。

小山 そう嘆いたら篠田さんが、「僕も君みたいな息子がいたらどんなによかったか」と言ってくれたって。

岩下 昔、カメラマンの川又昂さんが大島邸に伺った時に、息子さん二人が正座で「いらっしゃいませ」と出迎えて、侍みたいだったと。

小山 柔道をやってたから、うちは。

岩下 大島さんの躾なのかと思った。

小山 でも、「礼儀正しくあれ」というのは大島の口癖でしたね。

岩下 うちも娘にはうるさかったです。ご挨拶や礼儀作法、それからお箸の持ち方や食べ方。私は本当に甘い母親で、娘にはただ「愛してるわー」しか言わなかったから、篠田がそういう躾を全部やってくれて助かりましたね。