適度にお金を使って今を楽しむ
岸本 5年ほど前に、「老後資金2000万円問題」が話題になりましたよね。最近では、「この物価高騰では4000万円必要だ」なんて説も出てきてショックを受けました。
永濱 まず4000万円という数字は、「消費者物価が今後も毎年3.5%上昇したら20年後にいくら不足するか」というシミュレーションで算出されたもの。そんな勢いで物価が上昇する国はほぼありません。そもそも2000万円の試算も、生活水準が高い世帯の家計調査を前提としているうえ、調査した7年前と今では状況がずいぶん違う。
また、高齢になるほど支出は減るはずなのに、65歳以上は同じ額で計算している点でも不備があります。私が計算し直したところでは、物価上昇率が2%で推移しても、老後の必要資金は1200万円程度にとどまると思われます。
岸本 (拍手をして)ほっとしました。(笑)
永濱 先ほどお話ししたようにシニアが働ける場が増えていますから、無理のない範囲で仕事をして老後資金を増やすことも可能でしょう。
たとえば、60歳以上で仕事をしている二人以上の世帯の収支は月平均9万円以上の黒字になっています(総務省「家計調査年報2023年」)。70歳まで働き続ければ540万円の貯蓄ができるので、65歳で定年した時点で700万円あれば老後は何とかなるはずです。
岸本 私たち、2000万円という数字に縛られすぎていましたね……。
永濱 皆さんが「老後資金を貯めなければ」と節約志向になると、消費に回るお金が減って景気が後退してしまいます。そもそも日本人は、せっかくお金を貯めても使わないまま亡くなってしまう人が多いのです。
岸本 やっぱり不安の裏返しなんでしょうね。何歳まで生きるかわからないから、どうしても慎重になってしまいます。