「実は、いつか『ハムレット』をやりたいんです」

芝居に臨む姿勢に違いはない

ここ何年か舞台から遠ざかっていました。2015年に白井晃さん演出のフィリップ・リドリー作品『マーキュリー・ファー』、翌16年に同じ白井演出のリドリー作品『レディエント・バーミン』に出て、演劇的にできるありとあらゆるアプローチを白井さんと試してしまったような気がしていたのです。

とくに『レディエント・バーミン』では、1人10役を5秒刻みで演じ分けるという挑戦をして、自分の思考の限界が見えた。とても面白くて、これで十分と思いました。

今回、久々に舞台に挑戦しようと思ったのは、藤田俊太郎さんが演出をやる、というのが決め手になりました。やっぱり舞台での芝居、もっとやりたいんです。(笑)

よく舞台と映像でのアプローチの違いについて聞かれます。でも僕は舞台か映像かではなくて、作品の内容によって芝居の質を変えています。状況的に、目の前にカメラがあるか観客がいるかの違いはありますが、芝居に臨む姿勢に違いはないんです。

舞台だから声を張るとか、正面を向いて芝居をするということはやってこなかったですし、ドラマでも「あえてカメラを向いてセリフを言いたい」となることもある。台本を読んで「こうしたい」と思うことをただやるだけです。

実は、いつか『ハムレット』をやりたいんです。年齢的にもちょうどいい。ハムレットって、40ぐらいになっても、生きるか死ぬか、なんて言っているこのこじらせ方が、なんだか自分とすごくシンクロします。(笑)

18歳か19歳のとき、ほとんど初観劇体験で、蜷川幸雄さん演出、真田広之さん主演の『ハムレット』を観て衝撃を受けました。そのときのチケットの半券は、まだ家にとってあります。あまりにも衝撃的すぎて。それで「演劇ってすごい」となってしまったのが、僕の原体験。

ほんとうは『ハムレット』を、蜷川さんの演出でやりたかったんです。けれど亡くなってしまって、もうできないので、愚痴のように言っておきます。