死の準備は他人任せにはできない
覚悟の大切さは、家族、特に親の死が教えてくれます。親の死に立ち会うと、「もっと親孝行すればよかった」などと後悔と悲しみばかりが襲ってきます。
その悲しみを乗り越えた頃に親の遺影を見ていると、「次はおまえの番だぞ」と言っているように見えます。「覚悟して準備しろよ」と親が教えてくれているのです。
親のような死に方をしたいと思う場合もあるでしょうし、親のような死に方はしたくないという反面教師的な場合もあるでしょう。どちらの場合にしても、精一杯生きて死を迎える準備をしなさいと親が示しているのです。
準備の礎となるおすすめの方法をお教えします。私が理事長をしている公益財団法人日本尊厳死協会では、臨終が近づいてきた終末期に受けたい(受けたくない)医療やケアについて書面に希望を記す取り組みを推奨しています。
書面は終末期に発効するのですが、実際には書いているときにチカラを発揮するのです。書くことは、死ぬ覚悟と生きる決意を確認する作業だからです。親の教えを具現化する最良の方法だと私は信じています。死の準備は他人任せにはできません。自分で考えて、あるいは家族とも相談しながら書くことが大切です。
私の両親はすでに天国に旅立ちました。しかし両親は私の心の中で生き続けている。たとえば、私の不規則な食生活を心配して、母が「ちゃんと食べとるか?」と声をかけてくれたことをしばしば思い出します。そして私は自分の息子に「ちゃんと食べとるか」と声をかけています。
両親はより愛おしい存在として私の心の中にいますし、孫の心の中にも生き続けています。死は別れというよりも、いつも心にいる存在に昇華したのです。
「死」を忌避しないで向き合うことによって、「死」は人生をより豊かに生きるためのアドバイザーとなります。人生を精一杯に生きる覚悟と終末期のケアについて書面に記した事前指示書を準備しておくことで、最良の死を迎えることができるでしょう。