今の自分を認めて新しい一歩を

不妊治療のやめどき』の著者・松本亜樹子さん(NPO法人Fine理事長・妊活コーチ)は、

「晩婚化が進み、子どもを授かろうと治療を始める年齢が高くなっているので、妊娠が難しくなっているという現実があります。また経済的な負担が大きいことや、仕事と治療の両立が難しいことも影響していますね。まじめな女性ほど、仕事に支障が出ることや同僚に負担をかけることをおそれて妊娠を先延ばしにします。それで、ますます年齢が高くなってしまうのです」と語る。

松本さんは自身も不妊治療の経験者。「何が何でも子どもがいなければだめだ」という思いにとらわれ、やめることが怖いと思っていた時期があった。だからこそ、「治療をやめるのは、とても大変なこと」と自身の経験を振り返る。でも、かつて決断できずに悩んでいた自分に、「やめても、それがすべての終わりではない」と伝えたいという。

「治療をやめたあとにも幸せな暮らしはあるし、時間はかかっても少しずつ状況を受け入れ、前を向いて歩きだす女性たちをたくさん見てきましたから。治療の継続に迷ったら、お休みをして、冷静さを取り戻してから考えるのもひとつの方法です」

授からなかった人たちは、「子どもがいる未来」への夢を完全には断ち切れず、「生涯消えることはないだろう」と口をそろえる。でも、そんな気持ちも含めて、ありのままの今を認めれば、新しい世界が見えてくるかもしれない。

現実と折り合いをつけながら前に進む強さを、大人の女性たちはちゃんと持っているのだから。


ルポ・不妊治療を経て「子のない人生」を受け入れる
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