日本社会の歪みが外国人にも影響
すべての依存症は本人だけではなく、家族関係や環境を含めた、その人を取り巻く社会の問題でもある。必要なのは説得や厳罰化よりも、医療や自助グループなどにつなげて回復を目指すことだ。痴漢を含む性依存症にも、当然同じことが言える。
「痴漢の加害者を断罪すると同時に、治療して新たな被害を生まないようにすることは重要です。だけどそのためには被害者をケアする取り組みをもっと強化しないとおかしい。いまだに痴漢を大したことのない犯罪だと思っている人が多いのです。被害の実態を社会全体で把握する必要があります」と田房さんは訴える。
痴漢行為は世界中にあるが、日本の多さは際立っている。イギリスなど、いくつかの外国政府の渡航注意情報には、日本の性犯罪についての警告が掲載されているほどだ。
今回の取材で驚いたのは、常習的な痴漢で検挙されてSOMECの福井さんのもとへやって来た、あるベトナム人男性の話だ。
「彼は日本に来てから初めて痴漢をするようになったと言っていました。ベトナムでも日本の満員電車並みの混雑したバスに乗っていたが、一度も痴漢をしようとは思わなかったと。ではなぜ、日本でやり始めたのかというと、『女性が誘った』と言うのです。少なくとも本人はそう信じているようでした。北米から来た男性にも同じような人がいました」
日本の何が彼らの痴漢スイッチを入れてしまったのだろうか。
「他国の女性のように強い意思表示をしない日本人女性の態度が、誘っていると曲解された可能性はある。同時に現代の日本社会が内包する一種の歪みが、彼らに作用したことも考えられるでしょう」と福井さん。
世界を席巻した#MeToo運動が日本ではあまり盛り上がらなかったように、わが国には性犯罪の被害者が声を上げにくい土壌がある。
日本社会に根強く残る男尊女卑や女性蔑視と、日本型の性暴力の問題は関連していると、斉藤さんも指摘する。
「私が性暴力関連の取材で『日本は男尊女卑依存症社会である』と、さまざまな媒体で答えていると、『斉藤という専門家が日本は男尊女卑の国だと本に書いているけれど、おれは違う』というようなクレーム電話を病院にかけてくる人がいます。はじめは女性スタッフが対応し、私が電話口に出ようとするとガチャッと切られる。つまり、下に見ている女性スタッフには高圧的に出るけれど、男性の私には言えない。そういうタイプの男性は少なくありません」