でも焦る必要はなくて、自分の歩幅で前に進んだらいいんです。前に進もうとするから悩むわけで、これも大事な「力」やと思います。
自分の不幸を人に話して、しんどさを和らげるのもいいでしょう。聞かされるほうは、ええ迷惑やけど(笑)。でもほんまは自分でもわかってるんですよ、頑張ってきた自分を。
10年近く前、下の息子がハワイで結婚式を挙げたんです。息子夫婦と両家の親だけで食事をした時、夫のウクレレに合わせて、私がハワイアンウェディングソングを歌いました。そしたら息子が突然、ウワーッと声を上げて泣き出したんです。
その瞬間、これまでのしんどさも疲れも全部流れ去って、「この子を産んで育ててよかった」と心底思いました。学校の成績は悪いわ、先生に呼ばれて怒られるわ、いじめられるわ、入れる高校はないと言われて家庭教師雇うわ……いろいろな苦労がありました。
それでも、母の日に200円ぐらいのペンダントをもらっただけで帳消しになるのが、親というもの。あの日の息子の涙は、最大のご褒美でした。
「無償の愛」ってよく言いますが、私にとってその対象は子どもだけ。見返りのない愛情を注げる存在を与えてもらったわけですから、苦労と言ったら話になりませんよね。人生の一時期を濃密に過ごせたのは、子どものおかげやなあと思っています。