それからさらに時間がかかった。谷川さんのあとがきと詩が来なかった。秘書のKさんを通じて、書きたいけど身体がついていかない、つい横になってしまう、九十二歳の身体が苦闘しているのも伝わってきた。

『ららら~』の中にこんな箇所がある。お父さまの谷川徹三さんが九十一歳のとき、美術館を見ようとバルセロナまで行った。谷川さんが介助役で。ところが美術館の前で「行かない」と言い出した。谷川さんもさすがに腹を立てて、目の前まで来てなんでって。「でも今、彼の心情がすごくよくわかるの」。

どういうことですかと聞くと「疲れたんですよ」と谷川さんは答えた。谷川さんも、こんなふうに疲れているに違いなかった。

しかしあとがきは来た。とうとう来た。その二日後には詩が来た。しぼり出すような詩だった。あたしたちがよってたかってしぼり出させたんだろうと思った。あとがきにも詩にも、形がなかった。七十年以上詩を書いてきた人の最後の表現がこれで。凄まじかった。