なんとかここで踏ん張って次の世代につなげる

ただ、一方で今の時代こそ、人情だとかそういうものが実は求められるとも思うんですけどね。これほどそれが詰まったものはないとも思いますしね。

1991年、先代の京山幸枝若が亡くなった時にもこれは何とかしないといけないと考えて、浪曲の教室を作りました。それを根気よくやってきて34年。今の弟子である京山幸太、京山幸乃ができました。なんとかここで踏ん張って次の世代につなげる。それしかありませんし、本当に自分がやらないと消えるとも感じています。どん底に落ちているから、怖いもんはない(笑)。その強みもあるんですけどね。

京山幸枝若さん、京山幸太さん、京山幸乃さんのショット
弟子である京山幸乃さん(左)、京山幸太さんと

本当にね、こんなことを自分でやっていて言うのはアレなのかもしれませんけど、浪曲ほどエエもんはないとも思うんですけどね。人情というのはもともと人間が生まれた時から持っているものやと思いますし、誰にでもそこはあるはずなんですけどね。

なくしたらアカン。だからこそ、今回重要無形文化財になったのかなとも思いますし。人間国宝の認定式に行かせてもらった時に、ふと、これはゴールではなくスタートやと思ったんです。ここから何としても浪曲を知ってもらう。できたら親しんでもらう。それを残りの人生をかけてやらないとダメなんだ。そう改めて思ったというか。

もうこの歳ですから、ここから浪曲がものすごく栄えるという景色までは見られないかもしれません。ただ、なんとか“土台”だけは見たい。「これだけの“土台”があるならば、この先、立派な“建物”ができるはずだ」というものだけは見たいなと思っています。

■京山幸枝若(きょうやま・こうしわか​)
1954年4月1日生まれ。兵庫県出身。本名・福本一光。初代京山幸枝若に師事し浪曲デビュー。京山福太郎を名乗る。75年から吉本興業所属。2004年、2代目京山幸枝若を襲名。公益社団法人浪曲親友協会会長を務めている。文化庁芸術祭(大衆芸能部門)大賞、芸術選奨文部科学大臣賞などを受賞。24年12月、人間国宝(重要無形文化財保持者)に認定される。2月28日には大阪・なんばグランド花月で「人間国宝認定記念公演」を開催する。弟子に京山幸太、京山幸乃がいる。