受験のことは夫には内緒で…

アケミさんに変化の兆しが表れたのは、2年前の12月のこと。テレビを見ていると、特殊詐欺事件のニュースが流れた。アケミさんは、被害者相談窓口で電話対応をする女性の姿に目が釘付けになる。

「私と同年代の女性が、憔悴した被害者に対処法を優しく教えていたんです。それを見たとき、『私も社会の役に立つ存在になりたい。この仕事をやりたい!』と強く思いました」

調べてみると、その仕事は、消費者の声を企業に届ける「消費生活アドバイザー」というものだった。この資格試験に合格すると、同時に「消費生活相談員資格」も取得することができ、各地の消費者センターで優先的に雇用される。受験にあたって年齢制限はなく、学歴や職歴も問われない。さっそく資格試験受験のための通信講座に申し込んだ。

「受験のことは夫には内緒で進めました。幸い夫とは寝室が別なので、自室で勉強を始めたんです」

だが、年とともに記憶力が低下しており、「1つ覚えても3つ忘れてしまう」情けなさ。覚えるべき単語を書いた紙を壁にずらりと貼り、1次試験までの約10ヵ月間、寝る間も惜しんで勉強に励んだ。

そのかいあって、無事1次試験を通過。だが、郵送された合格通知を夫が受け取り、受験がバレてしまう。

「夫は『ほとんどが受かったんでしょう。2次試験で落ちるだろうけど、せいぜいあがいてください』と、皮肉たっぷりに言いました。でもそのおかげで、『絶対に合格してみせる』と、がぜんやる気が出て」

2次試験の論文と面接を終えて、手ごたえは五分五分といったところ。結果が出るのは2月だ。

「試験に合格したら、消費者センターに週3日働きに出るつもりです。夫はきっと『いつ挫折するか、楽しみだ』と冷たい発言をするでしょう。でもそのときは、こう言い返します。『どうぞお楽しみに。私も仕事を楽しみますので、お互いワクワクして過ごしましょう』って。これまで一度も口答えしたことのない私の反撃を、どんな顔で受け止めるのか……。その日が待ち遠しいです(笑)」

そして仕事の日は昼食作りを休み、夫には自力で用意してもらうつもりだ。文句を言われたら、かつて自分が夫に家や子どものことで相談をもちかけて拒絶されたときのように、「私は仕事で忙しいの。自分でなんとかして!」と言ってみたいと思っている。

 


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