はづき お父さんは、「女優・中村メイコ」を妻にするつもりで、結婚したのよね。
メイコ 誰よりも私を見抜いていた。だから、ないものねだりはしないでおこう、と思ったんでしょう。
はづき お母さんが謎の「お母さま役」を演じていることも含めて、お父さんは「やりたいようにやらせとけ」としょっちゅう私たちに言ってたもの。
カンナ 「よそのお母さんみたいなことを望んでも無理」という教育を受けたよね。まあ、「まいったな」と思うことは時々あったけど、お母さんが変わっているからといって、傷ついた感覚はなかったな。
自由な母でも子はちゃんと育つ。ずっとひとりでいる私と、結婚して子どもを2人産んだはづきと、画家としてスペインでずっと暮らしている弟、善之介と――。各自、やりたいように生きている。(笑)
はづき 私は「お母さんのようになってはいかん」と奥歯をみしめてやってきたのに、血は恐ろしい。今や子どもたちに“小メイコ”と呼ばれる始末。(笑)
メイコ うふふ、お気の毒に。
やるべきことがないと、それはそれで大変
はづき 女優業に専念したいと思ったことはなかったの?
メイコ いいえ、一度もないのよ。
カンナ 家でのいろいろな「役」を面白がっていたのかな。
メイコ そうね。でも、神津さんと大ゲンカして、「ふんっ、面白くない! もうイヤ!」と思ったことは何千回とありましたよ。お酒の勢いで家を飛び出したことだって。
はづき 心配して探しに行くと、近くのディスコで踊っているんだもの。私が中学生の頃、夜中にネグリジェのまま家を飛び出して、おまわりさんと帰ってきたこともあった。
メイコ 橋のたもとで泣いていたら、おまわりさんに捕まったのよ。
はづき ネグリジェ姿でフワフワ歩いているから、最初は幽霊が出たと思ったみたいよ。それで、「いやだぁ!」「放してよ!」なんてギャーギャー言いながら、腕をつかまれたまま家に帰ってきた。おまわりさん、そこで初めて中村メイコだと気づいたのね。「あ、メイコさんでしたか」と言われたとたん、お母さんはすました顔で、「はづき、お茶を出して差し上げて」。……萎えるよね。(笑)
メイコ 役者というのは自分をコントロールするのがうまいの。でね、「ここらあたりでものすごいことをやってみせないと、この芝居は終わらないぞ」と思っちゃうのよ。
はづき いや、世の妻というのはね、洗い物をしながらスーッと泣いて、台所の窓に映る自分の涙を見るものなのよ。
メイコ そうなの? でも、誰も見てないじゃない。
カンナ だから、見せなくていいんだって!(笑)
メイコ 私も長年、「普通の妻」とか「普通の母」をやっていて思うんだけど……。
カンナ ま、普通じゃないけどね。(笑)
メイコ いいから聞きなさい。自分の行動の3分の1くらいは、「芝居じみているな」とは感じているわよ。でもね、家を飛び出す場面までちゃんとやらないと、話が終わらない。
カンナ お芝居の視点で考えること自体、やっぱり女優だなー。