時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは東京都の60代の方からのお便り。孫の初節句にお雛様を贈ろうとしたとき、思い出したのは――。
今になってようやく
娘に女の子が生まれた。初めての節句にお雛様を贈ろうと決めた時、私が母から贈られた人形師のものをあげたいと思った。そんな自分に驚いたのは、ずっと燻っていたある想いがあったからだ。
物心がついた頃、私の家には雛人形がなかった。とりわけ段飾りの雛人形に憧れたものだ。立派なものを持っている友だちが羨ましかった。
母に強くねだったものの、返事は芳しくなく、いつも「まり子に贈りたい雛人形を探しているのよ」と、はぐらかされる。曰く、「顔が気に入るものがない」「わが家に段飾りを置くスペースはないし、飾るのが大変だから、そのうち押し入れから出しもしなくなる」と。