存在だけで相手の人生を照らせたら理想的

高良 小説を書く時、先に舞台となる場所を決めるんですか?

吉田 僕は場所が定まらないと書けないんです。たとえば、『続 横道世之介』では、世之介が恋に落ちる桜子の実家は東京の小岩。ポンとそこに桜子をおいてみると、どんなスーパーに行くんだろうとか、こんな所に住んでいるんだろうなとか、エピソードがちゃんと生まれてくるんですよ。

高良 なるほど。桜子と世之介の関係って、すごくいいですよね。世之介は世之介であるということだけで、桜子に楽しんでもらえていて、彼女の人生を照らしている。理想的だなと思います。

吉田 まあ、お似合いの二人ですけど。でも世之介みたいな人が寄ってきたら、女の人は普通断るんじゃないかな。(笑)

高良 そうかなあ。(笑)

吉田 高良くん、さっき24歳の自分にしかできない演技があったと言っていたけれど、30歳を過ぎた今とは何が違うんですか?

高良 若さと勢いのある24歳の演技としてはいいけれど、30を過ぎてこのままやっていくんじゃダメだ、と思って。若い頃って「もう一度やってみよう」と現場でもみんなで“何か”を待っているんですけど、それって、奇跡を待つみたいなスタンス。

吉田 どういうこと?

高良 無意識だらけなんです。無意識でやったことを評価されるから不安になるんですよ。だって、無意識だから、ほめられても再現できません。だから今は、いろいろな本を読んだりして、知っていることを増やしていく時期だと思っていて。それで、仕事でお会いした方に、おすすめの本をうかがうようにしています。

吉田 何か良い出会いが?

高良 井浦新さんが教えてくださった、河井寛次郎さんの本の言葉が印象的で。「美を追わない仕事。仕事の後から追って来る美」というんです。

吉田 確かに、追いかけると離れていくよね……。高良くん、これまでに仕事上の大きな決断って何かありました?

高良 20代前半までを振り返ると、大きかったのはNHK連続テレビ小説『おひさま』ですかね。最初は、「オレは映画がやりたいんだ」と突っぱねて、事務所とすごいケンカになりました。今思えば、あそこでやって本当に良かったです。