恵まれているからこそ、毎回勝負をかけている

高良 吉田さんはいかがですか?

吉田 28歳でデビューしてからずっと純文学をやってきましたが、ある文学賞でノミネートされたのに取れなかったことがあった。あの時は異常に悔しくてね。でも逆に、純文学の世界だけではダメだ、ここでほめられようとしていたらダメになる、と思いました。で、別の場所で勝負に出る決断をしたんだけど、結果的によかったと思いますよ。

高良 作家としての手応えみたいなものを感じたのはいつ頃ですか?

吉田 候補に何度かあがったのち、実際に芥川賞を取ってからですかね。長い道のりで大変だったねと言われることもありますが、書きたいことがあって発表できるわけだから、つらくはなかった。高良くんは、順調に見えますが実際はどうなの?

高良 仕事には恵まれていると思いますし、周りからもそう言われます。確かにそうなんだけど、そう言われると、なんだかなあとも思う。芝居は一つ一つ違うし、今回できても次もできるかわからないし。毎回勝負をかけなければならない。

吉田 ああ、一緒だな。僕も同世代の作家に比べて恵まれているなとは思います。とても感謝している。でも、ちょっと偉そうに言わせてもらうと、そうなると結局、あとは自分と闘わなくちゃならないんですよね。周りに勝ち負けを決めてもらったほうが、ある意味では楽。自分を納得させる作品をつくり続けるのは大変です。

高良 同世代の役者からは、犯罪者とか特殊な設定の役が来るのをうらやましがられました。でも役作りで、どうしてそういう行動をとるのか掘り下げて考えなくちゃならない。「そういうの、あまり想像したくないな」と思うこともありました。吉田さんは、どうして人間の負の側面とか業とか、ホントは向き合いたくないものを書くことができるんですか? なんでそっちに進んでしまうんだろう、と自問自答しませんか?

吉田 書いている時は、自分もその世界にいて、ホントいやーな気持ちになっているんですよ。それこそ人を殺したり……。最近、カジノで何十億円も損した話を書いていた時なんて、毎朝「ああっ、借金がある!」って焦って起きるんです(笑)。なんでこんなこと考えなくてはいけないのか、と思いますよね。でも、それが作家の業だと思う、俳優さんも同じでしょう。

高良 はい、そう思います。……吉田さんとお話ししていると、考えることや発見がすごく多いですね。

吉田 僕も楽しかったです。高良くんは、最初に会った時から思っていたけれど、言葉がむきだしで、存在自体が生傷みたいで。相手をヒリヒリさせるよね。(笑)

高良 え、ヒリヒリ? 大丈夫ですか?

吉田 俳優としては最高でしょう。