譲れないものを守る。それが九州人に共通する“粋”

吉田 映画で、長崎から上京してきた世之介が、がらんとした部屋の隅っこにしばらく正座していて、そのあと、前に身体を投げ出して畳の上に伸びるシーンがあるでしょ。あれがすごく好きで。きっと上京して自分の部屋を持った子は、みんなやっているよね。あれはアドリブ?

高良 そうなんです。どうしてそうしたのかな? たぶん、自分も上京した時に同じことをやったんじゃないかと思います。

吉田 親元を離れて自分の空間を得て、その空間に伸びてみる、わかるなあ。僕は18歳の時、進学で長崎から上京したんですが、高良くんは熊本出身ですよね。

高良 はい、高校2年の頃からモデルなどの仕事をぽつぽつ始めていて、高校卒業と同時に上京しました。でも実は熊本から通えるものなら、通いたいって思っていました……。

吉田 やった、東京だ! みたいな気持ちは。

高良 それは1ミリもなかった。九州が好きすぎたんだと思います。

吉田 僕は、東京だぞ、イエーイ! と舞い上がっていたなあ(笑)。あ、でも、時代の違いかもしれませんね。僕の頃は長崎だと映画もいろいろな種類がかからないし、レンタルビデオ屋さんも少なくて、情報に飢えていた。東京に行ったら、あれもこれもできる、と期待に胸ふくらませて。

高良 僕はホームシックになっちゃって、ゴールデンウィークに「帰るわ」って家に電話したんです。母は大喜びでしたが、父に「行ったばっかりやろが、帰ってくんな!」と怒られた。確かになあ、と思って。そこからちょっと心を入れ替えました。

吉田 どんなご家族なんですか? お父さんは普通の会社員?

高良 そうです。父と母は社内恋愛でした。あと、兄がいます。博多で船の操縦をしている……。

吉田 へええ。

高良 吉田さんは長崎を舞台にした作品をたくさん書かれていますが、やはり生まれ育った場所の影響って大きいものなのですか?

吉田 意識しているわけではないけれど、間違いなく作品に影響しているでしょうね。九州人らしさ、長崎出身らしさというものは、書いたものには自然に表れるでしょうし。

高良 僕、吉田さんの『長崎乱楽坂』が好きなんです。あれは長崎が舞台ですし、『横道世之介』や『国宝』などでも、長崎が大切な場所として描かれていますよね。長崎と熊本はずいぶん違いますが、それでも同じ九州だからかな、僕が「粋」だと感じる人物が、『世之介』にも『国宝』にもたくさん出てくるんですよ。

吉田 粋! それは嬉しいな。どこに感じてくれたんだろう?

高良 世之介は、フラフラしているようですが、相手の可能性をちゃんと信じて喋るところがあります。それが、僕の考える粋。『国宝』では、ちょっと自分の祖父を思い出したりもして。九州のノリというか、伝統みたいなものがあるのかな。

吉田 みんな何か譲れないものを持っていて、それだけはなんとしても守る。そこが、高良くんが言ってくれた粋の根底に共通項としてあるように思います。ブレないのが粋と言えるのかもしれませんね。