エスカレーターに長い列ができ、なかなか前へ進めないとわかると、思い切って階段へ向かう。おお、あのばあさん、元気だねえと誰かが見てくれているかもしれない。でもたいがい途中で後悔する。ああ、苦しい。

しかし筋力維持と健康のためには階段をおおいに使わなければいけない。だいぶ昔、聖路加国際病院名誉院長でいらした日野原重明さんにお会いしたら、もはや九十歳にならんとしていた氏は、二階か三階にあるご自分の研究室まで毎日階段を使っているとおっしゃった。しかも一段おきに上るとのこと。へえ、素晴らしいですねえと感服し、私も見習おうと思って幾星霜。ぜんぜん実行していない。

階段の途中でへこたれないための方策として、私は段の数を数えるようにする。数を数えることに気持を集中させれば、疲労感が和らぐだろう。一、二、三、四……。十を超えてもまだ続く。二十二、二十三、二十四……。え、まだ半分以上、残ってるの? とがっかりすることもある。

神社仏閣、あるいは古い日本家屋を訪れると、長い階段に遭遇する。昔の家の階段はなぜあんなに急だったのだろう。奥行きも幅も狭く、角度がきつい。階段で面積を取られると部屋の間取りが小さくなるから、なるべく急傾斜に作ったのかと思われるが、昔のご長老はさぞや足腰が丈夫であっただろうと想像する。