支える妻ではなくて
今作のヒロインはのぶですが、奥さんのことはあまり存じ上げませんでした。「はちきんのぶ(はちきん=男勝り)」ってあだ名をつけられていたパワフルな女性。朝ドラだと妻が夫を支えるイメージがありますが、それとは違って、奥さんがやなせさんを引っ張り上げて、背中を押したんだろうと取材を通じて感じました。
史実では、奥さんとやなせさんは戦後、高知新聞社で出会いますが、『あんぱん』では、2人を幼馴染にしました。昔やなせさんに子どものころのことを聞いたら、「気が弱くて、あんまり男の子っぽい遊びはしなくて、元気のいい女の子の友達がいた」とおっしゃっていたので、そこから着想を得ました。やなせさんは早くに父親を亡くしたり、実の母と暮らせなかったりと複雑な生い立ちで、結構寂しかったんじゃないのかと思うのです。そんなやなせさんの傍には元気のいい明るい女の子がいてくれたらいいなと、私の願いも込めました。
史実に沿って描こうとすると、朝ドラの『ゲゲゲの女房』(松下奈緒主演、漫画家の水木しげるさん夫妻の半生を妻の視点で描いた作品)のように結婚したところから始めるという方法もありましたが、幼少期や青春期を描かないと、やなせさんを描いたことにならないと思いました。
青春期の資料はほとんど残っていませんから、想像力を膨らませて書いています。当時のまじめで純粋な女の子は、私の知る限りほぼ軍国少女になっていきますから、きっとのぶもそうだっただろうと想像しました。
初回の冒頭シーンに書きましたが、「正義は逆転する。じゃあ、決してひっくり返らない正義ってなんだろう。おなかをすかせて困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげることだ」っていう考えに行き着く夫婦の話です。のぶは、戦争の前と後で思い切り正義が逆転する経験をすることになります。
戦時中で重いテーマを扱いますが、青春期は書いていて楽しいです。最近は、お仕事ものばかり書いていたので、久々に大恋愛、ラブストーリーを書いている。のぶと嵩が出会って、こういう会話をしたら、こういうことが起きるんじゃないかな…と想像を膨らませて書いていたら、ちゃんと2人が自然に恋に落ちました。そこはうまく書けた自信があります。見どころです。