腰が引けるほどの量のモノ
両親からゴーサインが出なかったのには、もう一つ理由がありました。実は10年ほど前まで、父は「いつか鵜野森の家に戻りたい」と考えていたのです。ところがそんな折、その家が空き巣に入られるという事件が。
別件で逮捕された犯人が取り調べで、「川上麻衣子の実家に入った」と自白したそう。忍び込んだ家に、両親が保管していたデビュー当時の衣装やポスターなどが飾ってあるのを見て、私の実家だと察したのでしょう。
ともあれ、放置しておくのはよろしくないと家族会議を開きました。それを機に父の態度は軟化し、「家のことは麻衣子に任せる」と言ってくれたのです。
許可が下りたのだからすぐに着手すればいいのですが、いざとなると踏み出せませんでした。腰が重かったというより、気が遠くなりそうな量のモノに腰が引けていたのです。
それが急に話が進んだのは、母がたまたま手にした不動産のチラシがきっかけ。「あの家っていくらくらいで売れるのかしら?」と興味が湧いたのです。
査定してくれた不動産会社の担当者が、「不用品はそのまま置いておいてもらえたら、こちらで処分しますよ」と言うのを聞いて、母はついに売却を決意。
処分費用は売値から引かれますが、業者に依頼しても100万円以上かかると思っていたし、何より、すべきことが明確になったように感じたのです。捨て方に悩まずに済み、要る・要らないの判断をするだけなら案外簡単なのでは、と。
また、売却を決めて期限ができたというのも大きな進歩でした。引き渡しまで2ヵ月ありましたが、仕事の都合もあり、1ヵ月で済ませようと決めて取り掛かったのです。