熱い刀剣ブームで76年ぶりの重版
もとは1939年に刊行された日本刀についての解説書。過去の名著を毎月1冊ずつ限定刊行する「岩波新書クラシックス」の企画の一環として昨年10月に復刊された。これは1943年の第5刷以来76年ぶりの第6刷にあたり、編集部もツイッターで「今後しばらく復刊されないと思われます。ご興味のある方は早めにお求めください」と告知していたのだが、SNSを中心に(おそらく編集部の予想をはるかに上まわる)反響を呼んで瞬く間に完売した。結果、たった1週間でさらなる重版が決定。復刊分の累計は1万2000部、現在第11刷だとか。
この盛り上がりの背景には『刀剣乱舞』ブームがある。歴史上の名刀たちが美しい青年「刀剣男士」の姿を得て戦う設定のオンラインゲームが誕生したのは2015年1月。刀にまつわる史実、伝承、持ち主や刀工をも踏まえたキャラクター設定の面白さが女性を中心とするゲームプレーヤーの心をつかみ、爆発的にヒットした。ミュージカルや演劇になってさらにファンを獲得。アニメ、実写映画も人気だ。
ファンたちは実物の刀を見るため各地の美術館へも赴く。好きなものについての知識を得ることに貪欲なのだ。日本刀研究にかけて当代随一だった著者が、イラストや写真も使いながら日本刀の歴史、特色などを多岐にわたって解説した本に手を伸ばさないわけがない。
中身は当時の活版印刷の文字面のままで、旧字体や難読漢字もあるからすんなりと読み進めないところもある。が、その雰囲気もまたよし。殺傷の道具でありながら神秘的な美しさを感じさせる日本刀は、人間の私たちよりも長く歴史の時間に触れてきたはず。ファンタジーではないその存在感が、じわじわと迫ってくる心地になる。
『日本刀』
著◎本間順治
岩波新書 920円
著◎本間順治
岩波新書 920円