大悪評だったアンパンマン

そしてぼくが54歳になった1973年、絵本『やさしいライオン』が好評で、フレーベル館から2冊目の絵本を書いてほしいと注文がきました。そこでぼくは「あんぱんまん」を書いたのです。幼児用に書いたから平仮名にしたので、特に平仮名に意味はありませんでした。この時、あんパンを配るよりもパンそのものが飛んでいってしまう方が面白いなと思って、自分の顔を食べさせる話にしたのです。

『新装版 わたしが正義について語るなら』 (著:やなせたかし/ポプラ新書)

砂漠で疲れて動けなくなった人のところにアンパンマンがやってきて、自分の顔を食べさせます。

それまでの絵本に幼児向けの作品はなく、この『あんぱんまん』が初体験でした。幼児用の絵本らしくなくて、主人公があまりかわいらしくなく、マントもぼろぼろです。

本は大悪評でした。特に大人にはダメだった。

出版社の人には「やなせさん、こんな本はこれ一冊にしてください」と言われるし、幼稚園の先生からは、顔を食べさせるなんて残酷だと苦情がきました。

絵本の評論家には、こんなくだらない絵本は図書館に置くべきではない。現代の子どもはちっとも面白がらないはずだ、と酷評される。アンパンが空を飛ぶなんてくだらないし、今の子どもにはもっとメカを使ったりして勇ましい話でなければウケるはずがないと言われました。