「えらいことになった」
1973年に最初の絵本『あんぱんまん』が出版されてから、約5年が過ぎました。表面的には変化なし。けれども目に見えないところで何かが動く気配がありました。
ある日近所のカメラ店にフィルムの現像を出しに行くと、店の主人が言いました。
「先生、うちの坊主があんぱんまんが好きでね。毎晩読んでくれというもんだから、私までおぼえちゃったよ。子どもは気に入ると何度でも読めって言うんだね」
これが最初の予兆でした。へえ、とぼくは思いました。出版社では評判が悪かったし、ぼくもみんな見向きもしないと思ってた。
でもそれから、似たような話をあちこちで聞くことになりました。幼稚園や保育園では人気で、図書館では『あんぱんまん』がいつも貸し出し中。新刊を入れてもすぐにボロボロになるというのです。
ぼくはえらいことになったと思いました。