「完璧な人間」
千尋は勉強もできて柔道もできる、文武両道の優しい性格です。初めて千尋の人物像を聞いたときには「完璧な人間だ」とすごく感じました。オーディションで選んでいただいたのですが、それでも「僕でいいんだろうか」という思いが強くて。プレッシャーもありましたし、実在した方をモデルにした役なので責任も大きい。真摯に役と向き合ってきました。
演じるにあたってやなせたかしさんの本『おとうとものがたり』を読みました。やなせさんにとって弟はアンパンマンが生まれるきっかけにもなるし、唯一無二の存在だったのだろうと思います。男きょうだいならではの嫉妬もあった。おとうとものがたりに、シーソーに乗る場面が出てくるのですが、どちらかが上がるとどちらかが下がってしまう。病弱だった千尋がたくましくなって兄と立場が逆転する。
病弱だった千尋は、成長して柔道をやるようになり、たくましくなります。見た目が変わると意識も変わるので、まずは体作りから入りました。『あんぱん』の直前の作品が線の細い役だったので、8キロほど体重を増やし、1か月半くらいかけて柔道家に見える体をつくりました。柔道家は引く力が強いので、腕や肩回り、胸あたりの筋肉をジムに行って鍛えましたね。
千尋らしいなと感じたのが、パン食い競走でのぶを助けた場面です。千尋は自分が助けたとは明かしませんでした。言わないかっこよさがあるし、人を助ける優しさが千尋らしい。千尋は目標にしたいような完璧な人間ですが、自分に近い部分があるとも感じていました。オーディションを受けたときに倉崎さんが「目の奥の表に出さない熱さみたいなものが千尋と合っていた」と言ってくださったからです。僕も感情を100%表に出すタイプではないので、そこは千尋と同じだと思っています。
育ての親の寛役の竹野内豊さんのセリフには、やなせさんの作品から取った言葉が多いのですが、そのなかでも、「何のために生まれて何をしながら生きるのか、見つかるまでもがけ」というセリフは千尋としても僕自身としても、心に響くものはありました。その時々で変わっていくものではあると思うのですが、その都度思い出して、自分の中で再確認しながらやっていきたいなっていう思いはあります。