子どもの命を守れる学校をつくる

全国でも危機感を持つ自治体では、すでに大がかりな見直しが始まっている。たとえば南海トラフ地震で津波が予想される千葉県南房総市では、東日本大震災の翌年から災害時の小中学校の方針を生徒の「引き渡し」から「預かり」へと大胆に変更した。

「実現したのは、教育長のすぐれた理念とリーダーシップ」と語るのは、自らも小学校の校長を経験し、市教委の参事を務めた鈴木智さん。長年、現場の教師として学校の防災対策に課題を感じてきた経験から、教育長の考えにすぐ賛同した。

「それまで非常時には『生徒を早く保護者に引き渡すこと』が常識とされていました。が、被災地の状況を見聞した後、教育長は、安全が確保されていなかったり、諸事情で学校に来られない保護者もいるなか、『早く引き渡す』は無理があると考えたようです。それが方針転換へとつながり、市内で一斉に訓練を行うことで、教職員と保護者、市民の意識にも根付かせようとなりました」

しかし、市教委より一斉避難訓練を求められた小中学校の校長からは反対意見が続出。「すでに年間スケジュールが決まっているので調整できない」「預かる訓練をわざわざする必要はない」など。多くは、唐突で前例がない訓練に対する戸惑いや「市教委からの一方的な指示」ととらえての反応だった。

「私が知る限り、賛成意見や『大変だけどやってみよう』という声は聞こえてきませんでした。それでも、やらない理由が見つからなかった。校長先生方を何としても納得させるという強い気持ちで臨みました」

 

「学校防災」チェックシート

お子さんやお孫さんの通う小学校・中学校の防災意識は万全でしょうか。
以下の項目にチェックが多いほど、不安要素が少ない学校といえます。
チェックが少なければ、親や地域から声を上げることも重要です。


 □ 子どもへの防災教育・防災授業が実施されている
 □ 防災マニュアルに書かれた避難場所が具体的にわかる
 □ 緊急時のルールが教員と保護者に周知されている
 □ 2011年以降、防災対策が見直された
 □ 地域の地理や地形、施設に精通した教員がいる
 □ 防災マニュアルが形式的なものでなく、
   地域に合ったオリジナルの創意工夫が見られる
 □ 海は遠いが地名に「水害」を示す文字があり、
   防災対策に「津波」が想定されている
 □ トップ3(校長、教頭、教務主任)に決断力、
   リーダーシップがあると感じる
 □ 通常の避難訓練のほか、「預かり訓練」「予告なし訓練」など
   踏み込んだ訓練がある
 □ 遠出や宿泊を伴う校外学習の際の防災対策が立てられている
 □ 行政(市職員)や地域住民との間に、防災分野での連携がある
 □ 教員のチームワークはいいと感じる
 □ 「児童引き渡しカード」が毎年更新されている


作成協力◎佐藤敏郎、鈴木智