約2ヵ月間、丁寧な説明を重ね、「市内一斉預かり・引き渡し訓練」を実現。校長たちが懸念材料にあげた保護者の参加も、蓋を開ければ皆、熱心に取り組んでくれた。これを皮切りに南房総市では、「校外学習時の防災対策の構築」や「防災授業の実施」「避難所開設計画」など、多くのことが推進されている。
なかでも、鈴木さんが以前、校長を務めた和田小学校では、「救急車要請は上司の決裁不要」とまで宣言。救急車を「なぜ呼んだか」は問題にせず、「なぜ呼ばなかったか」については議論するとした。これがいざという時、現場の教師の迅速な判断と行動を後押しすることは言うまでもない。逆にここまで徹底しなければ、何が起こるかわからない学校で子どもの命を守ることは難しいのだ。鈴木さんは最後に、自らが校長時代に体験した出来事を語ってくれた。
「ある時、熱中症の症状が出ている生徒がいました。急を要する事態ではないと判断したので、保健室で養護教諭が状況を観察、私もそばで見守っていた。すると入ってきた女性の担任から『何やっているんですか。早く病院に連れて行くべきでしょう』と強い口調でられました。救急外来に搬送し、治療の必要なしと言われました。別の学校では、保健室のざわついた雰囲気に気づき行ってみると、養護教諭が『救急車を呼びますから、この子を見ていてください!』といきなり私に指示。ともに、子どもの命を守る学校という現場で私が目指す教員の姿でした」
学校の使命は、子どもの命を守ったうえで、教育によって輝かせること。そのためには親と地域の積極的な協力も不可欠だと鈴木さん。
当時、大川小がそんな組織であったなら、あの日校庭にいた5、6年生たちは、成人式を迎えていたはずだった。