社会を変えた2つの事件

青木 少年事件ということでは、99(平成11)年に山口県で起きた光市母子殺害事件。あの事件は少年法と同時に、死刑をめぐる裁判のありようを変えました。

 当時18歳だった少年が、主婦とその子どもである乳児を殺害した事件ですね。

青木 ええ。先進国では死刑制度の廃止が圧倒的潮流になっていますが、日本の裁判でも死刑は「真にやむをえない場合」に適用するとされてきました。ところがこの事件では「特に斟酌するべき事情がなければ死刑」という判断が示された。これは大きな転換ではないかと議論を呼びました。

 あの事件では、はじめに下された無期懲役判決が覆って最終的に死刑判決となりました。被害者女性の夫である本村洋さんの運動も、流れに大きな影響を与えた。

青木 そうですね。一方で被告の弁護団は異常なバッシングにさらされた。光市の事件は戦後の加害者、被害者、被害者の遺族を取り巻く状況を大きく変えたと思います。犯罪被害者に対する関心が高まり、その支援の必要性が指摘されたのは歓迎すべきことですが、安易な厳罰化に向かうきっかけになったのは非常に問題だと僕は考えています。

 もうひとつ、社会の流れを変えた事件という意味では、平成13(2001)年に起きた大阪教育大学附属池田小事件も挙げられます。刃物を持って小学校に乱入した男によって、児童8人が殺害されました。犯人の宅間守は精神疾患があり、措置入院から出てきたところに事件を起こした。

青木 本人は公判で罪を認め、死刑になりたいと衝撃的な発言も残していますね。そして実際、確定から約1年後に異例のスピードで死刑が執行されました。

 ええ。そしてこの事件以降、全国的に小学校には部外者が自由に立ち入れないようになりました。と同時に今までタブー視されていた、学校への警察の介入がタブーではなくなった。学校からすぐ警察に通報するようになったし、街には防犯カメラも増えていきました。犯罪とプライバシーの兼ね合いについての捉え方が変わってきた。そのひとつの機となる事件だったのではないでしょうか。

青木 同感です。