私は東京の人になるんだ!

東京に行くたび、その活気や人の多さに圧倒されたが、田舎者だとバレないようにキョロキョロしないようにしたし、ダサいと思われないようにそのとき持っている中で最高にオシャレな服を着ていった。

ところがいざ渋谷や原宿に繰り出すと自分だけとんでもなくダサい気がしてくる。というか東京で暮らしている人は、逆にTシャツに短パンのようなラフな格好でその辺をフラフラしている。一生懸命おめかしして来ました感が滲み出ている方が余計に田舎者っぽい。

それにみんな走っているみたいに歩くスピードが早い。小走りでユウイチを追いかける私はどう見ても田舎者丸出しで、周りに笑われているような気がした。

名古屋に帰ると「東京に比べてみんな地味だな」「こっちの美術館は規模が小さいな」とたった数日行っただけで周りに都会マウントをとった。小物すぎる。

休みのたびに東京に行くのはしんどいと思っていたある火曜の夜、帰りの新幹線の時間が迫る中、ユウイチに

「もうこのままここにいたら? こっちで美容師やればいいじゃん」

とタカシ風に言われた。

「うん、そうしたい!」

帰りの新幹線に乗らないと決めたときの、あの昂揚した気持ちは今でも忘れない。私は東京の人になるんだ!

なんとか雇ってくれる美容院を渋谷で見つけると、すぐにミクシィのプロフィールの「現在地」を東京都にした。

どこもかしこもビルがぎゅうぎゅう、人だらけでゴミがいっぱい落ちていてドブ臭い渋谷を歩くたび「私は今渋谷を慣れた感じで歩いている」と実感して嬉しかった。嬉しかったけど、わざとだるそうな顔をして歩いた。その方が都会っぽいと思ったから。

斉藤ナミ
美容院の履歴書用にユウイチに撮ってもらった写真