東京に出てみても何も変わらなかった
夢にまでみた東京での生活。もうすぐ私も何者かになれるはず!
ところがいつまでたっても何者にもなれなかった。東京に出たからって急にカットが上手くなるわけでも陽キャになるわけでもない。人にどう思われているか気にしすぎることも、自分に自信がもてないことも、名古屋にいる時と何も変わらなかった。
それどころか名古屋にいた頃よりも人と話すことが少なくなった。深い地下鉄も、空との境目が見えないほど高いビルも、平日でも夜中でもどこにいても人がたくさんいることも、何もかも苦手だと感じた。気持ちが落ち着かない。
そして、こんなに人がたくさんいるのに私はひとりぼっち。余計に孤独を感じた。
美容院で接客中の話題は1パターン。
「愛知出身です。誰も”えびふりゃー”なんて言わないですよ」
「田んぼばっかり。でも夕焼けが美しいんです」
私は渋谷の美容院で、バカにしていたはずの田舎の話ばかりしていた。
テレビでやってた新しいカフェが近所にあってもいつも行列。並んでまで入りたくはなく「落ち着いたら行こう」と思っているうちに違うお店に変わってしまう。お酒も飲めないし、せっかく夜遅くまでいろんな店が空いていてもどこにも行かなかった。東京にいったら行こうと思っていた美術館にも行かなかった。
無限の可能性があったのかもしれないが、何にも触れようとしなかった。