一年で愛知に帰ることに
あれ? これ、思ってたんと違う。
そう気づいた頃に、ユウイチの浮気にも気づいた。
浮気を指摘すると
「おまえ暗いんだわ」「あと、田舎くせえ」
と逆ギレしてきた。
相手は青森から上京してきた18歳の美容師志望の女の子だった。もっと田舎じゃねえか!
「あんたなんて代官山に住んでたから付き合ったんだわ」「タカシみたいな喋り方してんのキモいよ」
と言ってやった。
自分のアパートが見つかるまで居てもいいとユウイチは言ってくれたけれど、私には自分で借りられるほどの信用力もお金も、ここからなんとかして人生の基盤を作っていくぞという気力もなかった。
溢れるばかりの人と、その正反対の孤独に、心と体をぎゅうぎゅうに押しつぶされてまでここに残りたいとは思えなかった。もう、帰りたい。
結局私は、1年で愛知に逃げ帰った。母は、私が16歳の頃に借金を残して行方不明になった父を見限って新しい恋人と暮らしていたが「帰っておいで」と迎え入れてくれた。
東京にさえ行けば何者かになれると思っていたが、そんなわけはない。
東京にあるのもただの日常だった。うまくいかないことを、環境のせい、家族や過去のせいにして、どこでだって踏ん張れない人間が、より人が多くて競争が激しくてせわしない東京でうまくいくはずがない。
私のような人間が勝手に夢見て期待してわんさか集まって来ることを拒むこともないけれど、勝手に敗れて、疲れて、去っていくことを引き留めることもしない。東京は、そんな場所だと感じた。