私の心の傷

みんなが「××君、万歳!」とさけんで両手をあげると、兵隊さんは「ありがとうございます」とおじぎをし、「行ってまいります!」と敬礼して、次々と電車に乗り込んでいった。

だけど、そのうち、もっと食べ物がなくなってきて、スルメも出なくなった。それでも、もちろん、兵隊さんはどんどん出征していったが、スルメがもらえないのなら、と私はお見送りをやめてしまった……。

黒柳徹子
(写真提供:新潮社)

私が何も知らないで、戦地へ送り出した若い兵隊さんたちの、一体、何人が無事に帰って来たのだろう。もし、どうにか帰って来られたとしても、戦地で、どれだけ、ひどい目に遭っただろう?

あのとき、いくら小学生で、それが何を意味するかを知らなかったにしても、スルメのために旗をふっては兵隊さんたちを送り出していたことは、すごく申し訳なくて、私は自分を責めた。兵隊さんたちは、旗をふる私を見て、何を思っただろう……。それは、ずっと、私の心の傷になった。