蔦重と横浜さん

約1年『べらぼう』の撮影をしてきて、そこでの景色は、とてもクリアに思い出せる状態にあって。死ぬ前のフラッシュバックのような状態というか。

特に蔦重との出会いの場面や、雪が降る中、力になってくれるように頼みこむシーンなどは印象的で、今もはっきりと覚えています。

後半では、蔦重に「米の値を下げたいが、どうすればよいのかわからない。米の値を吊り上げているのは商人。商人のことは商人に聞くのが一番」と立場を超えて相談にいくシーンがあります。蔦重からヒントを得た意知は「それだ!」と勢いよく飛び出していく。

実は、そのシーンが僕のクランクアップだったんですが、意知がそれまでにないような“ハイテンション”になる場面なんです。ちょっとかわいい感じで(笑)。

それまで、基本的に誰袖と一緒、もしくは屋敷にいてクールに振る舞うシーンが多かった。だからこそ、蔦重を演じる横浜流星さんと芝居をして、明るくクランクアップできたのは、とても良い終わり方でした。

横浜さんとは、今回初めてご一緒しましたが、本当に素晴らしい俳優さんです。

あくまで僕の印象ですが、過去の大河ドラマと比べても、横浜さんに求められていることはとても難しいんじゃないかなって。

コミカルな部分があれば、感情的になったり、それでいて江戸時代の空気を纏ったりして…。振り幅が求められるキャラクターを見事に演じていらっしゃる。

2人で並んで座って、本番が始まるのを待つ時間などでも、少なくとも僕は自然な状態で横浜さんと一緒にいられたので、それが演技にも良い意味で表れたように思います。前半の「べらぼう」における蔦重と田沼家は、常にどこか近い距離感にある存在。そのあたりもうまく表現できたんじゃないかなと。